ウォーターフロントにて。

東京湾景 (新潮文庫)

東京湾景 (新潮文庫)

「奇跡のラブストーリー」と銘打たれていたものだから、どうしようと思いつつ読了。これまで読んできた吉田修一のテイストは変わらずで一安心。逆にこの話をどのようにドラマに仕立て上げたのか、興味が出てきました。何だろう、文庫の解説ラストにも書いていたけど、最後に泳いでたらマジ爆笑ものなんですけど。
とは言え、最後の場面は良い!できそうな、できなさそうな約束と、永遠に続くのか、続かないのかわからない恋の行方。2人の関係が動きだして「しまう」描写が好き。逆に、ついに始まる事のなかった、真理との関係も切なくて。「男運の悪い女を自分が今抱いていると思うと、妙に興奮させられることがある」という一文など、何と残酷で納得のいく表現なんだろう、と。
「涼子」と亮介の関係を知らずに結ぶ劇中小説「東京湾景」の存在が、奇妙に浮いているというか…全てを吐露した亮介の胸のうちや、美緒を唐突に揺さぶっては翻弄した内容も真実なのに、ドラスティックな結末にならないのが、面白いところです。小説の結末も、当然の帰結を迎える訳だし。
正直、「東京湾岸を恋人たちの聖地に変えた」お話ならまっぴら御免、つか、『セカチュー』みたいな流行り方でもしたの?というあおり文句はともかくとして。本当に海の、潮の香りがするラブストーリーではあるな、とは思いました。