夢で逢いましょう

うさぎの映画館 (電撃文庫)

うさぎの映画館 (電撃文庫)

はーさんと聞くとフルバを連想しちゃいます。何とも穏やかな空気も似ているといえば似ている…あくまで穏やかな所だけですが。
「銀河堂」という骨董店に持ち込まれる、少し変わった品物と少女・静の小さな交流を淡々と綴った佳作。本当に手の中に納まるような物語のサイズに、一般文芸で出すにしても薄いよな…と思っていたら最後の最後で思わず苦笑。成る程、電撃文庫で出す強みがありますわな、こりゃあ。
基本的に夢と現実の行き来する様が各章の共通した展開、それにしても静の思考が非常に淡白。昼間に見聞きした内容が夢に反映されるので、当然の如く非現実的なやり取りなのですが、夢見る本人が「そういうものだ」と自覚してるものだから波風が立たない。まあ、立たないからと言って面白くない訳でもなく、例えばスクリーンに映る映画の内容は少しドキッとなる暗示が込められているし、商店街で出会う知り合いの見せる姿はシュールでいてちょっぴり和む感じ。大人しそうでいて歯に衣着せない会話が得意な静という少女の魅力が夢の舞台装置に何処となく現れていて、もしかしたら彼女は、今回だけに限らず度々うさぎ映画館を訪れるんじゃないかな?と想像すると楽しいです。そして専門的な勉強を始めると、夢の部分がどう変わるのか?少々意地の悪い事も考えたり考えなかったり。
あと、己の過去を踏まえた進路の選択というテーマではそれぞれの登場人物にもスポットが当たっているのが特徴。普段付き合いのある人物の意外性が垣間見えて。あえて多くを語らない、詳細を明かさない…けれど何を伝えれば良いのかがわかるのは、なんか良い描写だなーと。春もそろそろ終わり、初夏の空気を感じる今時分が正に読み頃な一冊でありました。このタイミングを狙っていたのならば電撃文庫、侮れん…と思いつつ。