龍と剣と人と魔法。

金の瞳と鉄の剣 (星海社FICTIONS)

金の瞳と鉄の剣 (星海社FICTIONS)

作者の素性と作風を知らなくとも、がゆん表紙の絵面だけで正しく物語の雰囲気を伝えているのはとても素晴らしいなって。実際のところ、正統派ファンタジーの儚さと青年2人旅のあっけらかんとした爽やかさを表現するのにこれほどピッタリな組み合わせはないでしょうし、女性受けもすこぶる良さそうな気がします。紹介文で「虚淵玄の剛筆(ハードボイルド)」なんて煽っているので、もしかするとびびって読んでない人がいるかも知れませんが、到って普通のファンタジーだと思います。フレーズの端々にエスプリが利いてはいるけど、1話完結のコミカルな短編集ですね、むしろ。
一連の物語の中でのお気に入りは「古城の盗賊」。夜の間でなくては開けられない宝箱を攻略するために、主人公のタウとキアに伝説の盗賊が力を合わせて立ち向かうシンプルなストーリー。クライマックスの描写も事の顛末も、何ともさっぱりとしていて良いです。キアは全編を通して人間離れした行動をしてタウを翻弄していますが、タウはタウで何処か隔世的で刹那的な生き方をしているから、2人して善悪を通り越した純粋な感情を持ち合わせている。いつかどこかで奇妙な名を残すのかも知れないな…と余韻に浸りつつ。