『ほし』『雲』に思う事。

雲のむこう、約束の場所 新海誠2002-2004

雲のむこう、約束の場所 新海誠2002-2004

昨日AIRを観に行った帰りにフラリと購入。何しか連想するものがあったんですよね。装丁がシンプルで、普通の単行本て感じで良いと思います。「ほしのこえ」「雲のむこう、約束の場所」を手掛けた新海誠の超ロング・インタビュー集という事で、氏がどういった人なのか、作品がどんな風に創られていったのかをまとめて読めるのは、個人的には嬉しかったり。これまでの流れを逐一熱心に追っていた訳じゃないですし。
一応シネリーブル神戸での舞台挨拶は観に行ってます。どんな話か全然知らなくて、予告も観た事なくて、ポスターから想像してたのは「初恋の娘の好きだったヴァイオリンの曲を思い出の地で弾く」話か?ってな具合。よってパンフレットにサインしてもらう時も「SFだったんでビックリしました」などと間の抜けた言葉を吐く始末で、そんな自分に対しても丁寧に握手してくれはったのが印象的でした。で、年末年始にキッズステーションで初めて「ほしのこえ」を観て映画になった作品は追っかけ終了。
で、この本読んでみて、なるほどと思うと同時に意外にも思う内容がちらほら。まず、作品の成り立ちが割と現実的というか。こういうのじゃ売れない→じゃあSFで、っていう身軽さや、DVDの枚数に関するお話だとか、商業的な部分でもきっちり考えているんだなー、と。後、ヒットする過程がいわゆる「セカチュー」などの純愛系と似ていると思った。それは本文でも確信的に語られていて、評論家の東浩紀に、話題になる前から「冬ソナ」を薦められてたそうです。「エロゲーみたいだし、アジアではこういうのが流行る」と。それが新海誠の世界に似ているというくだりにきて、ちょっとショックを受けたんですよね。ああ、エロゲと冬ソナとセカチューほしのこえ、どれも同じはまり方・嫌われ方してんな、って感じで。何が面白いの?と言われてるのも然り、それでもって互いには相容れない存在だったりすると思うんですが。4つ全部いけます、って人は少ないと思う。他方、裏側の製作者サイドでは同時代作品的な繋がりというか、クロスオーバーが起こってるのが面白いというか。今、世の中で受ける要素は何か?ってところまでは同じ、それをどのメディアで発信させるかで誰に響かせるのかが違ってくる、という事なんでしょうか?それとも流行った各種の作品が結果として同じ向きであっただけなんでしょうか?よくわからん。
そんな中、新海誠の好んできた世界観はストレートやなぁと思わせるものが。村上春樹という名前がでた時点で納得する人はするんじゃないでしょうか。自分は何故か読まないようにしているんで比較できませんです。単語としては「うる星やつら2 ビューティフルドリーマー」ってのもでてくるし、割と余さず隠さず、変り種は出てこないですねー。そういう素直な部分が透けてみえるのは、わかりやすいけどた易い事でもないと言いますか…。
後、作品に対する批評に対しても、言い訳がましくなくありのままに回答してる印象も持ちました。大手同人作家のジレンマみたいなものはやはり発生する訳で、熱烈にはまる人もいれば翻ってけなす人もいるでしょう。自分だって映画館で『雲〜』を観終って拍手はしませんでした。あっさり終ったのが原因でしょうけど。『ほし』もそうなんですが、感動した!って訳じゃないんですよね。全くの個人製作だから凄い!って観点ではまれる時期に観てたらまた別だったろうし、衝撃を受けたとは思います。ただ、メールが届くまでにかかるあの距離に、凄いメッセージ性を感じたというか…作品そのものを観る前に知ってたならば、凄くフラットに鑑賞できたんじゃないかと。「雲〜」にしても最後目を覚ましたからこそ失われる想いがあって、ああそこなんだなって読んでて実感します。例えば人に薦めたりする場合、話のキモである部分を話してしまっても一向に構わない、それよりかは言ってしまった方が良いんじゃないかって事です。つか、キャッチフレーズが既に示唆してるんですね、『ほし』も『雲』も。自分も単純だなーとは思いますが、映像の美しさもさることながら、お話自体で好きだなーと思える部分がやっぱりある!と思っていると言う事らしいですわ。
という訳で。「雲のむこう、約束の場所」が滅茶苦茶好き!って人には逆にもの足りなかったりするんでしょうが、あまり詳しくない自分にとってはちょうど良いと言うか、これまでの生い立ち含めてのインタビュー内容はかなりの分量かと。意外に楽しめた一冊です。