超お嬢様とさくらの女王

(この分で行くと、入学式になるのかしらね、満桜の頃は)
4月とは思えないうす寒さの中、未だに固いつぼみを覗かせる桜の木々を、複雑な面持ちで見上げてはため息をひとつ、ふたつ。世の中、サクラなどは早く枯れてしまえば良いと思う人は稀なのかしら?お父様などにそれとなく愚痴をこぼしてみると、「この時期、京都に行けば同じような事を言う人も少なくないよ」と笑いながら返されたりしますけど。どうにも怪しい物言いですこと。
「はぁ…」
いけない、またため息。この季節は言うまでも無く苦手。苦手な上に、どうしても思い浮かべずにはいられない顔ができてしまったから。半歩うしろに引きつつも、堂々と肩を並べて私に微笑む彼女。その笑顔が今は無性に憎らしい。桜に縁遠い私とは、契りを交わす事も遂に無かったけれど、それも当然なのかも知れない。何故?何故なら、あの娘ほど桜の似合う人は…いない。彼女と姉妹の契りを結んだ2人は、いずれも1本の桜の木の下で出会い、惹かれていった訳ですしね。そう。だから、困る。あの桜が散るまでは、私の愛すべき妹、より何より、貴女の事を思ってしまう―相も変わらずの桜嫌い、であるのに!
…ええ、きっと憶えていらして?貴女がそのアンティークのようなふわりとした髪に、一枚でも花びらを纏わせて私に逢うと言うならば。もうその時、私には花びらごと抱きしめる衝動を無理やりに、二言三言の嫌味でもって誤魔化すくらいの事しかできない、いいえそれすら保証はしかねるという事を。待っています。だから早く散っておしまいなさいな。そんな私の戯言めいた空想とともに。