スイーツ・セレクションに寄せて

夏期限定トロピカルパフェ事件 (創元推理文庫)

夏期限定トロピカルパフェ事件 (創元推理文庫)

西洋骨董洋菓子店 (4) (ウィングス・コミックス)

西洋骨董洋菓子店 (4) (ウィングス・コミックス)

第一章のエピソードを読んでいると、思わず『アンティーク』におけるシャルロット・オ・ポワールのうんちくが頭をよぎったりしたのですが、しかし!それ以上に、スイーツとちょっとしたミステリの融合という観点における共通点の多さが印象的。『西洋骨董洋菓子店』では、一癖も二癖もあり過ぎる男だらけのケーキ屋という設定の面白さと奇妙さが、一つの事件を巡る重要な舞台設定である事。オーナーの過去と現在を見事に繋げて物語としているのが絶妙の読み応えとなっています。
対して『トロピカルパフェ事件』はというと、言うまでもなく<小佐内スイーツセレクション・夏>。魅惑のフレーズ、練り上げられた(おいしそうな)スイーツの数々、そして全てを回り終えた時にみえる顛末…古典部シリーズや『いちごタルト事件』と比べてもぴか一のお話だったなぁと思います。おまけに凄い引きで以下続く、というのが堪らないところ。早くも秋期限定の話が待ち遠しいのでした。
それにしてもビジュアル的には非常に良い!と快哉を送りたい程の小佐内さんなのですが。狐面にちょいアナーキーな変装姿と、尼そぎスタイルのちっちゃい子という全体像がかなりツボ。加えてあの性格ですから。急にまずくなったパフェの後味よろしく、思ってみればハッピーな結末じゃなくても問題ない、というお話なのが実はすごいっすね…と思いつつ。
春期限定いちごタルト事件 (創元推理文庫)

春期限定いちごタルト事件 (創元推理文庫)

アーモンド入りチョコレートのワルツ (角川文庫)

アーモンド入りチョコレートのワルツ (角川文庫)

永遠のフローズンチョコレート (ファミ通文庫)

永遠のフローズンチョコレート (ファミ通文庫)

閑話休題。「合わせて読みたい」という訳でもないけど、いかにも甘くて美味しそうなタイトルの本、という事でぱっと思いつく限り挙げておきます。『いちごタルト事件』は初読みの感想がこんな感じでした。スイーツの名前通り、少し酸味の利いたクセのある作品なのかも。そこに行くと『トロピカルパフェ事件』、物凄く読みやすいです。
『アーモンド入りチョコレートのワルツ』、いつもふと思うのはどういう生き方なんだろう?という疑問。サティの音楽そのものを聞けばイメージ湧くのでしょうか、さてはて。ピアノの先生と陽気なフランス人と変わり者の友人と「わたし」のワルツはしかし、不思議と共感を呼ぶ場面。ほんの少しだけの特別な時間が、きっと何年も前には確かに自分にも存在していた…のでしょう、きっと。ちなみに表題作とは別の『彼女のアリア』、こっ恥ずかしさに悶えつつもメッチャ好き。藤谷さんのナチュラル・ボーン・ライアーっぷりに乾杯。
山盛りミルフィーユが印象的な『薔薇のミルフィーユ』。でも白・紅・黄のクリームが挟まったミルフィーユは想像するだに美味しそうな。黄薔薇はちょっぴり酸味がキツめ、紅薔薇の高貴な中にも庶民的な香り、白薔薇の和洋織り交ぜた風味etc…。実際のところ、各エピソードにちょっと刺激的な表現があったりで、かなりお気に入りの一冊。きわめて自然に乃梨子の耳に指突っ込んでみる聖さま、とか。吹いたし。悶えます。由乃祐巳も髪を下ろしてるのがGOOD!
小市民を目指すことで、表向きは平穏な生活を送ることに成功した小鳩くんと小佐内さん。対照的に、出会った時から既に殺人という非日常を受け入れた基樹と理保。やがて訪れる結末にさえ目を背ければ、なかなかの甘い関係なのですが。それはともかく、様々な小説やらゲームやらの断片が意図的に組み込まれているのも『永遠のフローズンチョコレート』の楽しみの一つ。自分が確認した限り、こんな感じ。問題作?とも言えるのでしょうかねー。