「館」が奈須きのこを呑み込んだ?

空の境界(上) (講談社文庫)

空の境界(上) (講談社文庫)

ここ数年、形態を変える度に読んでいるのがこの『らっきょ』な訳ですが、文庫版では綾辻行人の解説付き!という事で新装された表紙も堪能しつつまったり購入。メフィストの対談も未読だったので、なかなか楽しめました。もちろん真っ先に解説読んだので本文は…まあ、またいつか読もう。
ところで、「アヤツジってるな―」と一番強く思える作品はというと、『月姫』です。らっきょ帯の「歴史的傑作!」「新伝奇ムーブメント」なども同人誌等、二次創作を圧倒的に巻き込んだ『月姫』世界観の広まりこそが該当する要素であって、つまりは綾辻行人に本当の解説をお願いしたいのは、らっきょというより月姫…のような気がしないでもない。綾辻氏はどのヒロインを選ぶのか?に期待してます。美しき双子姉妹的に考えてヒスコハ有利か!?半分嘘。
暗黒館の殺人(四) (講談社文庫)

暗黒館の殺人(四) (講談社文庫)

でもって、こちら『暗黒館』の最終巻には奈須きのこ。解説に至るまで独特の言い回しっぷり、さすがとしか言いようがなかったです。しかし、こういった相互乗り入れのサプライズよりも凄いのは、綾辻行人の静かなる「進化」であったのかも知れない。奈須きのこが言及している『館シリーズ』における物語の一体感…はむしろ衰えているように読みました。これはもう、時代の流れと共に作者や我々読者が磨耗してしまった感情であるから仕方ない、と納得できる評価軸ではあります。むしろ驚くべきは、崩壊のカタルシスから一転、無限の可能性を秘めた展開を見せつつ幕を閉じる物語の最終局面でしょう。これはまさしく『月姫』における歌月十夜であり、Fateにおけるhollow ataraxiaではないか!そう思わせる開放性を『暗黒館の殺人』からひしひしと感じとったのでした。
つまり、綾辻自ら「そちら側」と表現した、「奈須テイストのテキストが波及させる二次的な世界観の広まり」を、時代性に沿っていつの間にか獲得、もしくは『十角館』から巡り巡って還元していたんじゃないかとさえ思えた訳でして。無駄とも思える冗長さ、キレのない真相、読みにくさを伴う神の視点…それらの重さが一変して読者側に襲いくる、もとい襲ってきてくれるという喜び!もちろん、それぞれの作品の発表時期から考えて、偶然の一言で済んでしまう共通性ではありますが。綾辻作品が世に与えてきた影響と奈須作品のそれが、重なり合った「今」という時期…それこそ自分にとっての「局所的」新伝奇ムーブメントなのだろうと…認識しつつ。
インシテミル

インシテミル

余談。新時代の「館」とは、まさしくこのような作品をもって然るべき。