明けては枯れる夢の羽ばたき

関西軍西宮地区甲子園駐屯所における狂喜に満ちた阪×巨2連戦詰めと、優勝祝いのオール明けでのエロゲ購入、最終戦における鳥やん&シモさんやっちゃったよ記念で優勝決まってたのに派手に騒いでるガード下の連中のアホさ加減に乾杯!…してたら何時の間にか10月も早一週間が過ぎていた訳であります。

群青の空を越えて 初回版

群青の空を越えて 初回版

さて、9月末発売のタイトルについては『メドレー(誤変換)』なども気にはなってはいたものの、本タイトルの物語冒頭部

「あの子は君の目の前にあるあの大きな楠の木になったの」
幼い頃、子猫の亡骸を埋めながらそう教えてくれた隣のお姉さんは、
三毛猫のような柄をした戦車に轢かれ今はその隣に眠っている。


「アンダルシアの雨は気まぐれで時折平野に空き缶が降る」
奇妙なシュプレヒコールと共に、いつも中身の入った空き缶を投じた向かいのお兄さんは、
催涙弾の豪雨にうたれ街角で二度と動かなくなった。

…という文章に、どうにも痺れた。こーれは気になる、つか、やりたくなる!
内容についてはまず、GRAND ROUTEをやり終えて初めて、ホッとした!というお話でした。
架空戦記の、とりわけ日本の近未来における戦争を描く…そっち方面の知識はまるで無い自分にしてみても、その練り込まれた世界観、舞台背景、理論などはテキストを追うだけでも面白かった!そしてそれ故に起こる突然の事故やあっけない「死」というリアルさが、こう腹にズーンと…。各ヒロインのルートごとに、悶えるような残酷さと感動が入り混じってて何かもう大変でした。
もう一つの軸は、文化祭で舞台『かもめ』を演じるという「群像劇」としての物語。全体通しての芝居がかった台詞やら演出は、逆に戦争という現実をくっきり映し出す鏡のようなもの。関東独立という、世界から見た滑稽さと、当事者達の明日をも知れぬ切実な思いの対比…それが戦争とお芝居という形でかなり明確に表現されていたのではないでしょうか?だからこそ、この物語は喜劇でもあり、悲劇でもあり、リアルでもある。
『かもめ』として帰結するのは若菜ルートで、個人的には一番好きです。ラストに関しては、一瞬ループ系!?と思わせたりしてくれて…そう言ってしまっても良いような、全然違うような。それからプラトン吹いた。ヘギーのおとんはどんな本書いてんねん!と。
加奈子ルートは、笑っちゃいけない所で笑えたりするのが、ねえ。ヒロイン・加奈子ではなく、主人公・加奈子とも言えるような作り。裏主人公はトシかも。
意外に綺麗なお話なのは、フィー教官か。「愛って何?」というテーマは全編通して真っ直ぐに、何度も語られるのですが、特に拘ってるのはこのルート。まあフィー教官に限らず、若菜にしても加奈子にしてもヘギーにしても、「あーもう焦れったい!」という人間関係が逆に心地よいというか。もっと単純に「好き」で終わらしてもよい所を、かなり掘り下げています。もちろん戦下での恋愛とは?という側面が大きいのは確かですがね、それでも少年少女の心の迷い、在り様を青臭くても良いから書いているのは素晴らしい事だと思います。
夕紀ルートは、つまりサブルート。ただしCGはどれも出来が良いような。
GRAND ROUTEは、これがTRUEだけれども、可能性への果てしない入り口とも言えましょう。ここからは自分で何とかしろ的な、つまりはアナザーストーリーへの誘いにも思えましたが、さて。ここのブランドの「売り」ではありますが、今までやろうと思ってみた事がなかったAS作りに今回はかなり食指が働いてしまう辺り、『群青』の出来の絶妙さあり、という訳です。(まあ『しすパラ』でどうこう、というのも…色々話題作があるにもかかわらず初代『しすパラ』しかやった事ない己の性根はこの際置いとく事にして)
そんなこんなで、個人的に一番のツボはやはりチェーホフをお話に盛り込んだ事になるのかも。物語の理不尽さは『ゴドーを待ちながら』的なものの方が大きいような気がしてたら、案の定、設定資料の方でその名前が挙がっていて、納得。学生時代にベケットチェーホフの作品に触れて感じる、あの「ちょっとした」感覚・心理…懐かしくもあり、またゲームとして新鮮でもあり。また、やる人それぞれの嗜好性によって、色々な楽しみ・解釈ができる…そんな味わい深い作品ではなかろうか?と思ったのでした。