最も長き夜の犯罪小説

模倣犯1 (新潮文庫)

模倣犯1 (新潮文庫)

模倣犯(五) (新潮文庫)

模倣犯(五) (新潮文庫)

いやはや。読んだ人から印象を聞くと、大体は「とにかく長くて時間がかかる」という答えが返ってくるのですが、その言葉を聞くたびワタクシこう思っていました。「長いと言っても単行本の上下2冊、俺は『マークスの山』も『屍鬼』も『永遠の仔』もサクサクっと読んできたオトコですぜ?」…と。そして去年、全5冊の文庫化になったところで「いっちょ読んでみますか」と手に取ったのが年末年始の出来事。そしてー
舐めてました。ホンマに時間かかりました。年始どころか一月丸々潰れそうなくらいに。当時の皆様方、内心の事とは言えスンマセンでしたー!
感想としては一言、物凄い。あらゆる関係者にスポットをあて、ねちこく描写してストーリーを重ねていくまわりくどさは、ミステリーとしての面白さの基本線からは確かに逸脱しているようにも思えます。時には苦痛として襲い掛かる、その真っ向勝負じみた犯罪の全体像に訳もなく手を止め考えてしまう事もしばしば。
しかし、ここまで描き切った事に意味はあるほどの出来栄えでもあり、そこが読む人の評価を非常に悩ましくさせているんだろうなーと。あえて面白さとして抽出するならば、1巻と5巻。つまり始まりと終わりなのですが。特に1巻、刑事モノとして読み応えがあります。5巻の「対決」シーンについては、そこに至るまでの暗く長い道のりあってこそですが、クライマックスとして非常に盛り上がる「舞台」のような感覚が何とも言えず良い!そして最期まで交錯する善と悪の価値観、現実の寂寥感が終わりよければ全て良いって訳じゃないよ?と考えさせられます。
久しぶりに本に「やられた!」という気分と同時に多少の予定が狂った事にちょっぴり毒づきたい小物気分も混ぜ合わせた今の心境ですが。劇場型犯罪という部分では、まさしくタイムリーな事件が今IT界のあの会社で起きた今こそ、読んでみるべき小説なんじゃないか?と思ったのでした。