すき焼きファイト。

空とタマ―Autumn Sky,Spring Fly (富士見ミステリー文庫)

空とタマ―Autumn Sky,Spring Fly (富士見ミステリー文庫)

タ・マ・姉!タ・マ・姉!…と叫ぶ前には、すっきりと幕を閉じる、少しビターな物語。
秀逸なのは、小学生のような、姉のような、母親のような、文中の言葉を借りるなら、万華鏡のように姿を変えるタマの言動。序盤の、ガキのような真剣かつ下らないやり取りが、読み終わった後には温かく、微笑ましい思い出となって脳裏をよぎっていく感覚…何とも言えず快感です。

物語の上にあっては、こんな風に明るく立ち向かっていくタイプの人が、断然好き。ある意味、さわやかに突き抜けていく最後、というのは例えば『アヒルと鴨のコインロッカー』や『ブギーポップ・イン・ザ・ミラー「パンドラ」』のような。まずは廃倉庫だとか、地下のトンネルだとか、暗い場所から青い空へたどり着く「心地よさ」も特徴的ですしね。
とにかく、始まりのアホくささが、見事に全体のバランスとなって、ちょっとした青春ストーリーの表・裏などを感じさせず読ませているのには感心です。引っかかりを感じずに読み終わった時、何を思うか?自分は、なかなかに楽しい小説だ、と思えたのでした。