誰が悪人?誰もが悪人。

悪人

悪人

物語の終盤、少し泣いた。最後の最後でまた少し泣いた。何より登場人物の暗く沈んだ生活の中、ほんの僅かに光が差し込むかのような描写にハッとします。読み始めから中盤にかけての『模倣版』のような事件展開と人間の「悪意」が重苦しいのですが、それぞれが人間臭く憎らしくもあり共感できる部分もあり。善悪のバランスを淡々と描く作者が一番憎らしいと思いました。いやマジで。
どちらかと言えば主人公になれない人たちの群像劇、事件に対する世間の目は恐らく紋切り型の野次馬根性。決して良い人間という訳でもない各々の立ち位置。そんな漠然とした悪意に向き合う当事者の小ささを息苦しく読みました。同時に絶望から立ち上がる勇気を見ました。そして決して晴れる訳ではない最後の独白がとても美しく思えて仕方がないのでした。吉田修一の文章に抱く漠然とした期待とはまた違う感情だけれど、とても良かったと思う。まさしく読んだ人次第の「悪人」定義ではあるだろうな…とも思いつつ。