彷徨いこんだ約束を探そう

樹海人魚 (ガガガ文庫)

樹海人魚 (ガガガ文庫)

ガガガ文庫初読み。田中ロミオを華麗にスルー、真っ先に中村九郎に手を出すのがここでの嗜み。
読了。何ですか、この読みやすさは!2時間で読めちゃいましたよ。序盤の難解な部分を抜ければサクサク行ける上に、作者特有の戦闘描写の感覚はそのままと言う、今までで一番バランスの取れた作品になっていてビックリ。これ、オススメしても良いですよね?(これまでの中村作品の評価の割れっぷりを思い出しつつビクビクとした目を挙動つかせながら)
不老不死の研究から生まれた人類を脅かす人魚という存在に、「歌い手」と「指揮者」―人魚を調律して使役する人間―らを擁する楽団の組織Do-or(ドア)が立ち向かう…という基本ラインは何時になくわかりやすい設定。下っ端に属する主人公・ザネ=ミツオと、誰からも使役してもらえない歌い手・霙が出会った時、運命のDOORが開かれる・・・というボーイ・ミーツ・ガール的な青春物語要素もGOODです。そこに幼馴染にして歌い手である「バービー」菜々が絡んでの三角関係もアリで、ますますライトノベルらしいお話に!特にダメダメ主人公を挟んで女の子が取り合う場面など、本当に作者が中村九郎なのか?と驚きを禁じえません、どうにも。
とは言え、「らしさ」が失われた訳でもなく。例えば序盤の読みにくさなどは、人魚・死花花の能力「殺した人の記憶を失くしてしまう」によって主人公の記憶が曖昧になる事が原因。一度読み終えてからだと、バービーとのやり取りが結構良いシーンだったりするんですけどね。記憶が現在進行形で失われるという描写を、特有の言い回しで表現されちゃあ、そりゃ読み難いってモンでして。
各歌い手や人魚の能力と戦闘場面などは、色々な作品を連想はするものの独特な仕上がりだなーと思いました。ヒロインである霙の重力反転などは、それ何てボイルドさん?なのですが、天井がなければ空の彼方まで落っこちていくスケールの大きさが素敵。部屋の天井にベッドをしつらえて眠る姿などは、想像すると中々ラブリー。その他、まさしく「脱兎」のごときスピードスターのラビット、「絶対零度」の氷使い・バービーなど特殊能力てんこもり。加えて、最終的には不老不死と人魚の関係をきっちり説明つけているのが、意外とまとまっている要素にもなっていて驚きです。
とにかく、これまで作風が合わなかった人にはオススメできる内容だと胸を張っては言い切れない事も無くはない…です。逆に、作者を偏愛する人にとっては物足りない?のかも知れませんが、バランスの良さでは随一という事で宜しいんじゃ御座いませんか。まだまだ作家買いでいけるぜ…と満足しつつ。