1フレームの軌跡

コバルト本誌で『不器用姫』を読んだ時から待ちに待っていた短編集、ようやくGET。私立リリアン女学園の特殊性と神秘性を久しぶりに堪能できたのが嬉しいところ。ここまで長期シリーズして、妹になるやならんやで揺れに揺れても、築き上げてきた世界観の懐の広さも感じられます。
お気に入りは何といっても『不器用姫』なのですが、他の短編にも共通して存在するそこはかとない「負の感情」が良い!です。人間として当たり前、ましてや年頃のお嬢さんとしての生々しい感情に対して、最後には何らかの答えでもって1歩前進する姿が爽やかで美しい。山百合会という特別なステージから見た祐巳達のありふれた生活と、ごくごく普通の生徒達がもつ波乱万丈な生活が写真を通して一瞬交差していく演出もニクいというか。そんなきっかけを運んでくるのが桂さんだったり可南子だったりというのも意外で。と同時に思わず嬉しくなってしまう一場面なのでした。
それにしても、もう一つ全編に共通して流れる「甘さ」がかなりの破壊力。特に最初のお話。このズレは反則級です。『三つ葉のクローバー』も好き。名前の響きからして良いなぁ、「立浪には気をつけろ」なんてスミマセン当方男からすると某ドラゴンズの2000本安打の人がイメージされてどうにもニヤリとしてしまう訳でして。こういった小悪魔な娘さんがいるって事自体が面白いのですが、事の顛末が予想以上にキュンときて困る困る。対照的なのは『不器用姫』ですが、こんな結末があってこそ!と読んだ当時思いましたよ。まだまだマリみていける!とも、ね。
祐巳―可南子の出会いと、江里子―令の姉妹誕生話も挟んで、次回の瞳子に対する囲みはバッチリだと思うのですが、今回一番目を引いたのは由乃でした。相変わらずの暴走っぷりが泣けます。この一連の流れで羽交い絞めされてるってどうよ?と呆れつつも、もはやこういう由乃じゃないと由乃じゃないというイメージだよね…と思わず感心。今巻の主人公の風格バッチリな蔦子さんと、あくまで可愛らしい笙子をも上回るインパクトを由乃さんに感じつつ。